四万十の家
~空に浮かべられた舟のような建築~
敷地は四万十川沿いにあり、美しい川の風景を望める場所にある。初めてこの敷地を訪れた時、ぼんやりと川の流れに沿うように細長いプランが川を望むべく2階レベルに持ち上げられている構成をイメージしていた。クライアントに最初に提示したコンセプトはそのどれもが素直でシンプルなものであった。
1)四万十川を望むことのできる眺望の良い2階レベルに住宅のほとんどの機能を持ち上げる。
2)1階はコンクリート造とし、北側の崖に対して安全な構造とする。
3)2階はシンプルな木造の架構で構造をあらわしにし、木に包まれて住まう空間をつくる。
4)瓦屋根が最も美しく見える単純な切り妻屋根の細長い形状とし、厳しい自然から身を護るための厳然とした建築の姿とする。
5)外壁は焼き杉板張りで古い納屋のような外観で1階のコンクリートとの対比が美しくなるようにする。
6)1階には使い勝手の良い土間収納を設け、バーベキュー等できる土間テラスをつくる。
7)内部には廻れる家事動線をつくり、ゆとりある幅で窮屈さのない動線とする。
屋根はいぶし瓦とし、外壁は1階のコンクリートの壁との調和を考え黒い焼杉板張りとした。内部は高知県産材の杉・桧を用い、天井は垂木構造のあらわし、壁は調湿機能のある塗り壁としている。床は幅広のオークフローリングをすだれ張りにして広さを感じるようにした。この家で使用する建材はできる限り自然素材を使用し、落ち着き品のある表情になるように配慮した。キッチンは造作で作り、オークの突き板やバイブレーション仕上げの天板等素材感が美しいものを組み合わせている。
昔からそこに在ったように、また長い月日が経っても気品と静寂さを兼ね備えた建築であるようにこの建築を計画した。この家で過ごす時間、眺める風景、それらがクライアントの記憶にずっと残るような居心地の良い建築であるよう願っている。
2021年 第7回 高知県建築文化賞 高知県知事賞(最優秀賞)
住宅建築 2022年8月号(株式会社建築資料研究社)掲載